大阪高等裁判所 昭和26年(ネ)193号 判決
控訴人は「原判決中控訴人に関する部分を取り消す。別紙目録記載の宅地の買収計画に関し控訴人が提起した訴願につき被控訴人が昭和二十三年十二月一日なした訴願棄却の裁決を取り消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は主文と同旨の判決を求めた。
当事者双方の主張は原判決記載事実と同一であるからこれを引用する。(証拠省略)
三、理 由
滋賀県栗田郡山田村農地委員会が自作農創設特別措置法(以下自作法と略称する。)第一五条第一項第二号に基いて昭和二十三年九月二十五日控訴人所有の別紙目録記載の宅地に対し買収計画を定めたので、控訴人が同年十月五日これに異議を申立てたところ同月二十五日これが却下せられ、同年十一月四日被控訴人(当時滋賀県農地委員会)に訴願したが、同年十二月一日右訴願を棄却する旨の裁決があり、同月十六日その裁決書が控訴人に送達せられた事実は当事者間に争がない。
控訴人は、山田村農地委員会の定めた買収対価は不当に低いと主張するけれども、買収対価の額に対する不服は自作法第一四条により国を被告として増額請求の訴を提起すべきものであつて、買収計画の違法の事由として主張することは許されないものといわなければならない。控訴人の右主張は採用できない。
控訴人は、買収申請人の横江小太郎は、漁業を兼業とする者であり、農業に精進するものでないと主張し、同人が漁業を兼業とすることは被控訴人の認めるところであるが、成立に争のない乙第一号証及び原審証人横江清八、中村晉三、当審証人横江小太郎の証言を総合すると、横江は昭和十六年頃から本件宅地上に所有している家屋に居住して農業に従事し、右宅地の買収計画の立てられた昭和二十三年九月二十五日当時は田三反五畝畑一反八畝を自ら耕作し主としてこれによつて生計を立てており、漁業は副業として営んだことがあるに過ぎない事実を認めることができ、控訴人本人の当審における尋問の結果によつても右認定を動かすに足りないから、山田村農地委員会が横江を農業に精進する見込のあるものと認めたのを違法とすることはできない。控訴人の右主張は理由がない。
控訴人は、右宅地は買収申請人横江小太郎の農業経営に必要なものではないと主張するけれども、原審証人横江清八、中村晉三の証言及び原審検証の結果を総合すると、右宅地は、横江小太郎がその上に家屋を所有し居住しており、右敷地以外の空地の部分は、平常は野菜などの栽培に使用せられているが、収獲時期には米麦の乾燥場として利用せられている事実を認めることができるから、右宅地は横江の農業経営に必要なものといわなければならない。従つて自作法第一五条第一項第二号によつて右宅地の買収計画を定めたのを違法とすることはできない。控訴人の右主張も失当である。
控訴人は、横江は長年月にわたつて右宅地を賃借していてその地位は安定しており、今更これを買収する必要はないと主張するから考えてみるに、自作法第一五条の規定が同法による解放農地を買い受けた者にその賃借する宅地の買収申請を認めた趣旨は、自作農となる者に農業経営上必要な宅地の所有権を取得させ、その経営上の便益を増進させ、農業生産力の発展に寄与させるとともに、土地所有者から受けることのあるべきあらゆる圧迫を排除して自作農の地位の向上を図り、農村の民主的傾向を促進させようとするものであつて、賃借権について如何に保護を充分にしても、所有権を与えなければ右目的を達成するに適当でないとしても小作農に農地を売り渡そうとする自作法の精神と同一の根拠に基くものであるから、たとえ横江の宅地の賃借人の地位が安定していたとしても、これを買収したのを違法ということはできない。控訴人の右主張も採用しない。
そうすると本件買収計画は違法であるとして、これに対する控訴人の訴願を棄却した被控訴人の裁決の取消を求める控訴人の本訴請求は失当であつて、これを棄却した原判決は相当である。そこで本件控訴は理由がないものとして棄却することとし、控訴費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用し主文のとおり判決する。
(裁判官 大野美稲 熊野啓五郎 村上喜夫)
(目録省略)